鯨の音/森 真察人
 
仕方で発されていて決して聞き取ることができなかった。僕たちはそうしてお互いに言葉を交わすことができないままに行き過ぎるのだった。この世界では少女が喋れないものなのかといえばそうではないようで、こちらに向かって声を発するひとの中には少なからず少女もいた。逆にこの僕の隣の少女と同じように、ぼんやりとして黙すのみの男もいた。



雨があった。雨風をしのぐ手段はなかった。だから僕は少女に覆い被さった。濡れた僕の背中から垂れた水滴が衣の裾から少女を濡らしていくのを見ながら僕は僕の体の冷えるのを感じて、ひとつ咳払いをした。
日照りがあった。湧き出す水は足りなかった。だから僕は僕の飲む量を少なくし
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