鯨の音/森 真察人
くした。少女が暑さでぐったりとしているときは僕が少女に水を飲ませることもあった。
寒さがあった。暖を取る手段はなかった。だから僕は僕の衣を少女に着せた。少女がふるえているとき僕は少女を抱きしめた。体温の混ざる感覚を僕は忘れなかった。
嵐があった。長く止まなかった。こういったとき僕たちは嵐の行き過ぎるのをただ待つのみだった。しかし今日は少女の様子が違っていた。泣いていた。大粒の雨が降り注いでいた。そう見えただけなのかもしれない。しかし僕には確かに少女が泣いているように見えた。
僕は少女を抱き寄せた。冷たかった。大丈夫、と僕が声を掛けたとき、少女の左腕がぐしゃり、と崩れてもげた。僕は強く抱きしめ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)