鯨の音/森 真察人
、そしてこの鯨と僕たちのみが残された。
*
炸裂音がする。遠くで、あるいはそう遠くないところで、なにか巨きな、あるいはそう巨きくないものが爆ぜるような音。そのたびに波動する僕たちはしかし進まなければならない。
生成したり滅却したりする力を言葉はとうに喪(うしな)っていたから、僕たちは好きに話すことができた。かつてあった生活や建築物の話だ。といっても専ら僕が喋るのみで、少女は一言も発さず、分かりにくいジェスチャーのような仕草で僕に相槌のような動きをしてみせるのみだった。海鳥が少女を通り過ぎることがあった。海鳥は少女の肩口から逆側の脇腹へと抜けてまた空へと舞い上がり、ちょうど海鳥の
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