鯨の音/森 真察人
の名を唱えることで取り尽くされた。同様にしてひとびとが空を飛ぶにあたって憤ろしいと感じられるもの、たとえば連嶺や懸崖など、およそ天空からの風景を害すると見做されたものもその実在を奪われた。また先代のひとびとは肩甲骨が翼の名残であると信じていて、実際に幾人かの若者は最先端の言葉??いまおもえばそれは烏滸がましいことこのうえないものなのだが??によって背中から翼を生やし空を飛んでいた時代があったらしいのだが、天に近づいた彼らは悉くその翼が発火して堕ちていったという。彼らは天蓋を目指して一心不乱に言葉でもって目につく物を次々と取り尽くし、遂にはこの果てるともおもわれない海、ときたまに視界を横切る海鳥、そ
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