鯨の音/森 真察人
 
かってしか降らない。したがって、僕たちの眼に空からパンのようなものが降ってくるところがうつるとき、その空の下には僕たちとは別な鯨とひととがいるに違いないのだった。飲み水はといえば、鯨の背に育ってもはや岩のようになった藤壺の塊を??はじめ藤壺はまだらに鯨の背にあるのみだった、この藤壺の大きさは僕たちの航海の時間を物語っている??拳でコン、と叩くと水が溢れ出てくるのだった。僕と少女とはその水を両手で掬って飲むことで渇きをしのいでいた。



ひとびとにとって空を飛ぶのに邪魔だと目されたもの、たとえば電柱や電線など、およそ中空での視界を遮られると見做されたものは先代のひとびとによって悉くその名
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