遡行し移動し続ける原光景/ひだかたけし
 
あの夏の日から時間の止まり 
朝霧晴れた今日の一瞬の開けに織り込まれ
たけし起きろ森へ行くぞと兄からの柔らかな呼び声
遠い道程の時の運びを遡行し眼前に響き拡がりつ
兄に導かれ入り込んだ森の木々の幹節に留まるクワガタやカブト虫
漆黒の異様に艶めかしく朝陽受け荘厳に照り輝き
この世界の様相剥き出しにしつつも

いつの間にかあの日の流れ 、

共に通学路行く坂道半ば円形脱毛症になった中一の兄からの突然の宣告
『おい ガキ!これから俺の半径五メートル以内に絶対近付くな!』
一方的に縁を切られ裏切りの訪れ
父親代わりの兄の弟への虐待へと突っ走り

その日その時から尚も更に遡りつ
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