全行引用による自伝詩。 04/田中宏輔2
 


これは愛だろうか?
(ムージル『ヴェロニカ』吉田正巳訳)

家造りらの捨てた石は
隅のかしら石となった。
これは主のなされた事で
われらの目には驚くべき事である。
(詩篇一一八・二二─二三)

愛のおのずから起こるときまでは、
ことさらに呼び起すことも、
さますこともしないように。
(雅歌三・五)

声に出して考えていた。
(エドモンド・ハミルトン『審判のあとで』中村 融訳)

どうしてそのことを書かないの?
(フエンテス『脱皮』第二部、内田吉彦訳)

 悲しみはまず無言でなければならない、あんたはそう思っている。痛みを感じたあとで、初めてその痛みに
[次のページ]
戻る   Point(10)