全行引用による自伝詩。 04/田中宏輔2
ーブルの酒瓶も、その脇にある飲み残しのグラスも、錠前に差し込まれた鍵も、時計やランプも眠る。配膳台の上の散らしや新聞、部屋履きやソックス、ズボン、ワイシャツ、チョッキ、暖炉の火、窓の鎧板にかかった雪、家や庭、茂み、小経や舗石、垣根や杭、大小の町、列車や河川や港の小舟にいたるまで。空高く飛ぶ飛行機も、渡り鳥のように大陸をまたにかけて眠る。薬剤師の天秤も眠る。露店のひさしも、犬や猫も眠る。そして、人里離れた森の奥では(…)
ただ私、この私だけが眠れない。(…)
(ゲルハルト・ケップフ『ふくろうの眼』第二章、園田みどり訳)
(…)目的もなくブエノスアイレスの町を歩きまわり、人々を眺め、コンス
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