全行引用による自伝詩。 04/田中宏輔2
 
や絵だって眠る。寝具や絨毯、椅子や机や窓、カーテンに、衣服に、その他まわりを取り巻くありとあらゆるものが、外の霧だって、雪片だって、樹木も地面も水中の魚も、霧のかげや雪の彼方にいる人々も、それどころか鳩の巣でさえ眠るのだ。同じように、凍えている人も独りぼっちでだれも友達のいない人も、希望を求めて思い煩っている人や、恋という名のもとに屋根裏部屋や連れこみ宿で徐々に憔悴してゆく人も眠る。子供たちも、願いごとを唱えながら眠りにつく。黄泉(よみ)のヴェールにおおわれた死人の開かれた眼も眠る。盲人の光を失った顔も、蒼ざめた産婦も、涙さえも眠る。じゃじゃ馬娘の髪の毛にさした櫛やその髪に吹き込む風も眠る。テーブ
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