全行引用による自伝詩。 04/田中宏輔2
、玄関のドアを押し開ける。廃屋のかび臭さが鼻を打ち、冷気が肌に感じられる。熱い空気が私の後ろから中へ入りこむ。外の空気と中の空気が混じり合う空間に熱波らしき霧状のものが目に映る。
(ウィリアム・S・バロウズ『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』第三部、飯田隆昭訳)
よく考えてみると、こういう羨望混じりの感嘆の念は前にも味わったことがある。だが、あれは気が弱くなっている時に、異性愛者に対して抱いた感情だった。そうだ、おれはある時期、異性愛者が自分の生まれた社会と見事に適合しているのに感動したことがあった。異性愛社会には、まるで揺り籠の足元に置いてあるおもちゃのように、いろんな物が揃ってい
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