夜でなく、夢でもない。/中田満帆
 
て喋ったりするんだ? そんなものに必然性があるものか。わたしは腹が立って来た。室のなかには尊厳死のために用意した、ヘリウム・ガスがある。チューブや、イグジット・バッグもある。やつらはおれに酒を差しだす。とりあえず、ストーンズをロックでやった。死にかこまれて宴に興じた。そしてシロック・ウォッカだ。葡萄からつくられたフランス産の酒だ。大変美味だった。睡眠薬を3週間分嚥んだ。バッグをかぶる。チューブを差し込む。バッグの口を縛り、ベッドに横になる。死がわたしのモジュラー・シンセをしずかに鳴らす。もうひとりの死がガスのバルブをひらく。やがて意識が遠のき、酸素がなくなり、わたしは死ぬ。死ぬ。死ぬ。死んだ。

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