夜でなく、夢でもない。/中田満帆
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屈辱の痼(しこ)りを解きほぐしてくれるような他者がいない。積年の悪夢、そして中年の危機がわたしを追いかけている。なんだって、そんなていたらくに墜ちてしまったのか。じぶんの手を汚してまで生きてきたせいか、もはや他人のおもいを汲みとってやる情というものが非情へと変わる。わたしは臆病者、そして闖入者である。アルコールなしの生活をようやく1年過ごした。それはわたしが死ぬための準備だ。
さっきまで障碍者支援センターの担当者が坐っていたスツールに腰掛ける。そしていままでやってきた表現の世界についておもいを巡らした。わたしは無名の作家だったし、歌人だった。せまい世界のなかでしか通用しないも
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