element/こしごえ
 

 女は、会ったばかりの、この老人に胸の内を打ち明けた。
「私、生きていることにリアルを感じないんです」
老人は、みつめていた火から目を離し、こんどは川の流れに目を移した。その横顔は、すこしさみしい。
女も川へと目を向ける。
しばらく二人で心地よい風と川の奏でる音へと心を向ける。
 それから、「お嬢さんの名前は?」と、老人が詰まったような声でささやくように聞いた。
「・・・素子(もとこ)といいます。元素の素と書いて素子」
「いい名だ」
「・・・いえ、良くないんです。小学生の時、『○の素!』ってからかわれたりして、その時から自分の名前が嫌いなんです。思い出してしまって、いろ
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