element/こしごえ
 
い。
 名も無き詩よ 私はだあれ?
 名も無き詩よ 私はだあれ?」

鼻歌しながら、しばらく川下へ行くと、ひとりポツンと座り川の流れに面と向かいながら焚き火をしている老人がいた。
その老人の近くまで行くと女は立ち止まり、老人と焚き火を交互に見た。
老人は、その気配に気付いているのかいないのか、ただ、チョロチョロと燃える火をみつめたままだ。
「こんにちは」
と女は遠慮がちに声をかけた。
 老人は、ゆっくりとしわしわの顔をもたげ、女の顔をみあげて黙ったまま目で挨拶をし、また、火へと目をもどした。
着ている服は汚れていてくたびれてはいるが、その静かな目は、つよくやさしく、そして澄んで
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