「幸福の陰影」/asagohan
 

「・・・先生もこの中に入るの?」 その一言で場面が変わる。
 蝉の鳴き声が降り注ぐ
高く積み重なった白い地蔵達が前に私は立たされる。
夏の日差しが輪郭線をぼやかし、白い骨の塊のように見えた。
「・・・ああ、仕方ないかな。」
誰もいない境内で一人つぶやく
縁を持てなかったものは世の中を怨む
それを鎮めるものだとかつて父は言った。
怨みはしない、怨みはしない。と私はそう呟く。

突然の足音に気づき、ふりかえると
女の背中が階段に消えていく所だった。
私は追いかけようとするが 伸ばした手は枯れ木のように細くなり、
声は老人のように嗄れた。


そこは...

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