文学が救うべきものは、命ではなく物語である/鏡文志
 
とに文句をつけられることが気に入らないとでも言うような顔で男を見る。その拗ねた顔。まるで自分の我儘を通し切ることが最良で、それを邪魔されることに不満があるとでも言うかのように。父親は二階で寝ていても洗濯機からは遠い場所で寝ている。洗濯機の音はどんなに煩くても、二階にいる自分の部屋にはほとんど聞こえない造りになっている。それは他のことでもそうだ。男の兄が部屋で、大きないびきをかいて寝ている。兄は毎日男に暴力を振るい、その鼻息は荒く、生理的に嫌悪する言動を見せ、日中その言動にうんざりしている男にとって、夜中までその兄の汚いいびきの音を聞かせ続けられることは、苦痛なことである。長男は隣の部屋で寝ている。
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