はじめから世界はこわれているから/ねことら
 
かしらテーブルに載ってる手ごろで硬くて握りやすいものを、
私に投げたり、壁にぶつけたりする。

アキトが怒るとき、何か暗くうねる嵐のような気配が、
部屋いっぱいに充満して、その勢いがこわいから、
わたしはごめんね、ごめんね、とくりかえして、
感情や考えることを閉じていく。
アキトはやさしくて、そのあと私に触って、キスしてくれるから、
わたしがこわいのはアキトではなくて、
その暗くうねる気配なのだと思う。

一度、アキトが投げたリモコンが私をそれてテレビに当たったことがあった。
画面の隅のほうだったけれど、ぱきっという音がして、
てのひらくらいの大きさのひびが入った。

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