イヴの手が触れるアダムの胸の傷あと ──大岡信『地上楽園の午後』/田中宏輔
トが、わたしのうちに生きておられるのである。
(ガラテヤ人への手紙二・二〇)
という、新約聖書の聖句を思い起こさせるものであり、さらにまた、先に引用した氏の文章の後にある、
われわれの中に言葉があるが、そのわれわれは、言葉の中に包まれているのである。
というところなどは、パスカルのつぎのような文章を思い起こさせるものであった。
空間によっては、宇宙は私をつつみ、一つの点のようにのみこむ。考えることによって、私が宇宙をつつむ。
(『パンセ』前田陽一・由木康訳)
パスカルは、いわずと知れた高名な自然科学者であるが、また信仰心の篤いキリスト教信者でも
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