怨念/栗栖真理亜
 
取れないが
ところどころ漏れ聞こえてくる
それでも知らないふりをして物語を読み耽っていた

時間が経つのも忘れ熱中していると
あっという間に時間は過ぎて
ハッと気づいてスマートホンの画面の時間表示をみた頃には
十二時を少しまわった頃になっていた
母親に十二時半には帰ると伝えていたのを思い出し
慌てて本をカバンにしまい
コーヒーカップに残った冷めた珈琲を飲み干した

カバンと財布を持ちながら椅子から立ち上がった時
ガタッという音を聞きつけて
例の客の話を聞いていた店主が顔を上げた
「ありがとうございました」
店主と店員の声が明るく重なり合い
私に向けられた顔は心なし
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