怨念/栗栖真理亜
 
なしかホッとした表情

「うるさかったんじゃないですか?」
会計を済ませようとレジへと急ぐ私の背中越しに
思いがけぬ言葉がかけられる

「あ、はいはい」
約束の帰宅時間ばかり気にして
気持ちだけが急いでいた私は
声の主を確認する余裕すらなく
努めて明るい声で曖昧な返事をしてしまってから
「そんなことないですよ、大丈夫ですよ」
そう言いつつ振り返った瞬間
じっとこちらを見つめる客の目に
思わず背筋がぞくっとした

まるで源氏物語の夕顔に出てくる怨霊が
恨めしい目つきで光源氏を睨みつけたような

会計を済まして喫茶店を出てもガラス戸越しから
まだこちらを恨めしげ
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