上海租界/栗栖真理亜
 
らさせて庇った
しかし母親も含め誰も可哀想とは思わず
助けようともしなかった
日常茶飯事の出来事として

当時の人々は皆
同郷以外の人間の悲惨な状況を目にしても
次の瞬間何事もなかったかのように
笑い合い楽しくお喋りなどして
用事を済ませ家族で団欒をする
中国人を日本人よりも下に見ていた当時の風潮
歪んだ世界がそこにあった

終戦直後
満州鉄道に勤めていた知人の手伝いに行っていた
父親を除く家族は
同じ引揚者の人々でごった返す
狭い引き揚げ船の中で
身を縮こませ激しい揺れに耐えながら
日本に帰ってきた
まだほんの赤ん坊だった弟は
引き揚げの船の中で激しく泣
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