歯医者/栗栖真理亜
 
受診カードを手渡し
角がボロボロに破けた緑のソファ席に座った
何気なしに携帯を触っているとやがて名前を呼ばれる
呼んだのは社会に出たばかりのまだ若い二十代の女性で
黒い髪を引っ詰めてポニーテールのように一つにまとめ
建物以上にヒョロリと青白い顔をして白い作業着姿で突っ立っている
弱々しい笑顔で出迎える彼女に導かれて診察台に上がり
涎掛けのような物をかけられてからグレゴール入りの水でうがいをする

「お変わりはありませんか?」
ヒョロ長い顔の医師が愛想笑いを浮かべながら尋ねる
「あ、はい」
私は答えて同じように愛想笑いした
「今日は左下前歯を削っていきますね」
そう言うと
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