歯医者/栗栖真理亜
うとキュイーンという音をさせながら器械が口の中に入ってゆく
心地よい重低音が歯を刺激して気持ち良い
いつのまにかウトウトと眠り込んでしまいそうだ
ググッ
そんな重くなった瞼が思わず開いてしまったのは沁みるような痛みだった
「痛かったですか?」
慮る態度で医師が聞いてくるのがなんだか気の毒になって
「い、いえ、大丈夫です」
咄嗟に返事をした
痩せ我慢したもののやはり痛みは変わらず
「沁みるように痛いです」
正直に答える
「すみませんねぇ」
本当にすまなさそうに頭をかきながら
医師は先が細く曲がった機器でガリガリ歯を引っ掻いた
ウトウトしている暇もなく
私は少し体をこわばらせながら治療を受けていた
帰りの商店街は活気とまでは行かないがまばらに人や車が通っている
どこからか揚げたような匂いが漂って鼻をくすぐりながら流れてゆく
少し痛む歯を気にしながら自転車を走らせ腹の好き具合を考えながら
ちょっとしたオアシスを求める思いで少し先にある青い日差しの喫茶店へと
磨いたばかりの歯をポリフェノールでふたたび汚しに足を向けた
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