IN THE DEAD OF NIGHT。──闇の詩学/余白論─序章─/田中宏輔
 
「健康な感覚を持っているために全然とらえることができず、理解しようとも思わない」(トーマス・マン『ファウスト博士』二五、関 泰祐・関 楠生訳)ことを、わたしたちに教えることもあるであろう。それが、わたしたちにとって、新鮮な感覚や印象を持たせられるものであり、しかも、わたしたちのためになるものでもあるということも大いにあり得ることなのである。もちろん、わたしは、健康的なものからは何も得るところがない、などと言っているわけではない。正統的なものと異端的なものとが互いに分かち難く結びついているように、健康的なものと病的なものもまた、互いに分かち難く結びついているのである。よく、「意識のなかに二つもしくは
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