IN THE DEAD OF NIGHT。──闇の詩学/余白論─序章─/田中宏輔
 
の木の枝葉の揺れや、静かに整って聞こえる自分の足の靴音でさえも、自分自身のように感じていたのではないかと思われるほどである。すさまじい同化能力である。また、「ゆっくりと孤独を娯しんでゐるやうに枝から枝へと移り歩いてゐる」「枯木にゐる鳥」「の落着はらった動作」を「羨しく」思う民喜であるが、彼はまた、『沙漠の花』のなかに、「私には四、五人の読者があればいいと考へてゐる。」とも書いており、その言葉だけからでも、彼がいかに孤独であったか、窺い知ることができよう。「孤独の実践が、孤独への愛を彼に与えた」(プルースト『失われた時を求めて』第二篇・花咲く乙女たちのかげに、鈴木道彦訳)のかどうか、それはわからない
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