IN THE DEAD OF NIGHT。──闇の詩学/余白論─序章─/田中宏輔
 
と金網の上で微かな音を立てた。胃から血を吐いて三日苦しんで死んだ、彼女の夫の記憶が、あの時の物凄い光景が、今も視凝めてゐる箸のさきの、灰の上に灰のやうに静かに蹲(うづくま)ってゐる。

 濃い緑の松が重なり合ってゐて、その松の一本一本は揺れながら叫びさうであった。

僕は歩きながら自分の靴音が静かに整ってゐるのを感じる。

 まるで鏡のなかの自分自身をじっと見つめるように、民喜は、枯木の枝にとまる鳥を眺め、科学博物館に陳列されている剥製の動物に目をとめ、箸のさきにある灰や、濃い緑の松を見ているような気がする。ガラスの眼がはまった剥製の動物の表情や、金網の上で焼ける肉の音も、松の木
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