IN THE DEAD OF NIGHT。──闇の詩学/余白論─序章─/田中宏輔
 
は、ただ一度きりのことであり、二度とふたたび出てくることはなかった。もう一度くらい自分自身と顔を見合わせる機会があってもよいのではないかと思われるのであるが、じっさいに出てくると、やはり驚くことになるのであろう。これまでわたしが引用してきた俳句や短歌の作者たちも、わたしと似たような感覚の持ち主なのではないだろうか。

 つぎに、原 民喜の作品から引用する。出典は、『冬日記』、『動物園』、『夕凪』、『潮干狩』、『火の子供』の順である。彼もまた、わたしと同じような感覚を持っていたのではないだろうか。彼の小説はすべて、散文詩のような趣がある。

 ある朝、一羽の大きな鳥が運動場の枯木に来てとまっ
[次のページ]
戻る   Point(11)