もうひとつの越冬/山人
濡れた水滴を滴らせて、向こうの虹を眺めている
山道にはたくさんの私の手と足や頭が木に生っている。危うく心臓を落としそうになり、体中の内臓を脱糞したような日。そのたびに私は生きなければならない生きなければならない死んではいけない死んではいけないまだ死ねないどうか生かさせてくださいと土に祈った。石に祈った。もはや有機物から無機物になってしまったかのような錯覚だった。顔の表情筋すら動かすことも忘れて、薄い手袋の上から手を合わせ遠い雨混じりの神々に向かって懇願した。
霧がやがて生まれ、私をとり囲み、やわらかな温かい命をくれた
そこらじゅうの命という命を霧に混ぜて私に与えてくれたのは紛れも
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