くぼみをうめるあやかな幻想/菊西 夕座
 
の乳房がまるみをおびたまま溶岩に熱く鋳ぬかれて
3Dプリンターで再生したように時代をこえてよみがえるとき

はからずも唇のくぼみは聖マドンナを得たように甘く活気づき
失われた乳房をたしかな幻想の果実にかえて強く吸いよせた
その実は水蜜をたっぷりふくんでふくらんでいるやわらかな桃
吸えばすうほど蜜が濃さをまして幻想の汁で官能をぬめらせた

溶岩の沈黙はエドガー・アラン・ポーの『烏』に金卵をうませた
シャルル・ボードレールの倦怠でセーヌ川が波のしわを矯正する
ジャン・ジュネの裏切りが血管を魚にかえて皮膚に波動をおこす
言葉を話せばクトゥルー神話の巨石都市が語尾を路地へと誘いこむ
[次のページ]
戻る   Point(2)