定めの夜/ホロウ・シカエルボク
 
彼のゴージャスな振る舞いはおよそこの店には合っていなかった、チェット・ベイカーは無いのかい、と俺は尋ねようとしたけれど口にする寸前で飲み込んだ、あえてそれを選ばないでいる可能性だってなくはないのだ、余計な口は聞かないほうがいい、下手を打つとホテルの窓から落ちてしまうかもしれない、最後にホテルに泊まったのがどれぐらい前のことなのか思い出せなかった、いつ、どこで何のために泊ったのか思い出そうとした、夜は更けていたけれどまだ頭は働く時間だった、朗読会に呼ばれたのが最後だったかもしれない、でもはっきりそうだと言い切れるほどのものはまるで出て来なかった、水を飲めば思い出すかと思ったけれど、より曖昧になって煙
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