もうね、あなたね、現実の方が、あなたから逃げていくっていうのよ。/田中宏輔
 
いったい、どんな俳句なの?
 ここに書いてみて。」

メモ帳を取り出す。
「硬い鉛筆で描く嘴をもつものを」
「とんがりつながりね。
 それと
 イメージの入れ子状態っていうのかな
 絵のなかに描かれた絵のように
 嘴って
 見た嘴じゃなくて
 鉛筆で描かれた嘴だし
 その鉛筆だって
 頭のなかの鉛筆だしね。」
「そうですね。
 で
 これって、「を」が多いというので
 削るほうがいいって、よく言われるんですけど。」
「さいしょの「を」を削れって言うんでしょ?」
「そうです。
 でも、ぼくは、散文性が出したかったので。」

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