ずっと好きでいられますよう/由比良 倖
 
ない一種の可愛らしさを感じる。何故なら、宣長は概念的なことからは何も言わず、山桜があまりに好き過ぎるので、こんなにも美しいものがある世界を、混沌思想だとか、無だとか有だとか言うのは、あまりにも馬鹿らしい、という実感からしか何ひとつ説いていないと思うからだ。

 彼は病気になったときだったか、年がら年中、山桜が好き、という短歌ばかり書いていたらしいし、遺書には、墓はもう粗末でいいから、山桜だけは綺麗なのを植えてくれ、と書いていたらしい。「好きだ」というところからしか何も言っていない。「好き」には理屈なんて無い。

 宣長は「しきしまの大和心を人問わば朝日に匂う山桜花」という有名な歌を残してい
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