ずっと好きでいられますよう/由比良 倖
 
、どんなに恐ろしいものであったか、僕には想像も付かない。その祖母も今はすっかり呆けて、にこにこしているんだけど。完全に認知症が進行する直前まで、祖母は常に何かに襲われていた。しかも、病気ではなくて、本当のことなんだと言って、投薬をずっと拒否していた。

 僕もそうだったんだけど、病気のときって、「趣味を持って、人生を楽しく」なんてレベルとはかけ離れた世界にいるんだよね。

 僕は何年かの間、音楽からも言葉からも、何ひとつ感じなかった。音楽と言葉という最大で唯一の逃げ場を失って、僕は生きる場所を失っていた。死ぬ気力さえ無く、生きる気もなく、歯も一回も磨かず、働かない胃にものを入れると部屋で吐
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