数式の庭。原型その1/田中宏輔
る。
まだ咲いていないけれど
わたしの目のなかに咲いた
オイラーの公式の花が
いちばんうつくしかった。
*
わたしは蝶だった。
生きているときには蝶であったものだった。
いまはほぼ蝶の死骸というものになっている。
蟻たちが、わたしを数字と記号に分解していく。
まだ分解されずに残った私の複眼に
無数の空と無数の雲と無数の花が映っていた。
わたしを生きている蝶にしていたものは何だったのだろう。
わたしを蝶に生まれてこさせたものは何だったのだろう。
わたしは、花や雲や空と、何が違っていたのだろう。
複眼が外され、徐々に数字と記号に分
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