下野/田代深子
 

さらにも
線香灯る路傍の祠へも一献
累ねがさね幾十年の失敬を詫び 手を合わす
股ひらげ腕くねらした ふたなり神の
一身に兼ねる陽物と陰所の充足をうらやむ
懐し初めての女の 荒れた皮膚を掌におもう
あるかなしかの乳房 黒い乳首をのせた肋を
いくたり指で舌で擦りたてた そのにおい
天蝶の鱗粉かくのごと と感じむせた香油の
胸つく

誰かを待っている 誰であっても いじましく
乾いた空言も尽き ただ顔を俺は ゆるりと
見わたすだろう誰かれなく抱くやもしれず
そうしながら俺みずからに 別れを惜しむまい
告げよう
ここに来た その心根ばかりがうれしい と
いじましさも今さ
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