瞬篇3/佐々宝砂
 


2 パン

水仙の花は鏡の前に活けることにしている。黄水仙でもラッパ水仙でも、水仙の花を鏡の前に活けると、たちまち生き生きとする。しかしそれもせいぜい三日間だ。萎れ始めたら目も当てられない。水仙は気の毒な花だ。甘く香る小さな白い水仙を鏡の前に活けて、私は二月の北窓をあける。言伝を持ってくるのは羽根のある繊細な生き物。うすみどりの羽根は触れるだけでもろく破れる。蟻の足音よりちょっとだけ力強い声でその生き物は言う、「パンはきません」「それは知ってる」「パンはいなくなりました」「それも知ってる」「あなたがパンです」いやちょっと待って、それは知らない。


3 いち

軌道は計算されて
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