詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その3。+あとがき/たま
 
うっすらひらいた右眼が、月夜の猫の目のように青く灯るのを男は見逃さなかった。
 カーテンのないガラス戸は押しあげてあった。
 女が鎧戸をひらくと、眩しい汐風が流れ込んで部屋を満たした。窓の外にはやはりペンキを塗りたくったような紺青の海があって、そこは小高い丘に建つ一軒屋だった。
 男はベッドに寝転がったまま、汗ばんだ指に乾いた葉巻を挟んだ。薄っぺらな鏡台に腰かけて髪を梳く女の肩のあたりで、ちいさな扇風機はずっと回りつづけていた。
「ねぇ、どこから来たの?」
 鏡のなかの男に向って女が尋ねる。
「きのうの朝はマイアミにいたよ。証明はできないけどね。」
 括れた腰までとどく女の紅い髪を見
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