お客さん/soft_machine
 
 蝿の唾液の味というものは
 全体にくぐもっている輪郭と
 妙に痺れるようなさらりとした芯で構成されていて
 鈍い光を反射する鉄釉の盃の縁を
 六本の脚で複雑に
 同時に滑らかなことこの上ない優雅さで駆け抜けながら
 点々とくちづけして残された
 蝿の唾液の味からは
 何というか
 いつもしゃっきり人に接せざるを得ないでいる
 日常の
 心のすき間にわだかまる
 不安定さが露見してしまうほど
 甘美といえば甘美だ

 「お客さん、ようこそいらっしゃいました」
 帰宅して窓をごとごとと開いて
 氷を詰めたゴブレットにジンをごぼごぼと注ぎ
 ゑびすさま共々に傾けてい
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