お客さん/soft_machine
ていると
飛び込んでくるのだ
生まれは?
歳は?
聞きたいことを聞かぬのが酒注ぎの思慮ならば
カーテンがテーブルに投げかける
淡いゆらゆらとにじむ光と影が織りなす音楽に
興味を抱いた訳ではなかろうが
その背中で震えている翅の発する愉快な音型が
このお客さんが浮遊する度に不断に耳にする
滑らかな発声のひとつなのだと思おう
「お勘定」といった野暮な科白ひとつなく
現れた時と同じくらい
唐突に窓をくぐり抜け
蝿は私の
この一時の愉快な孤独など知りもせず
ただの孤独へと私を振り返らせる
ああ、あの唇のなんと奇妙な
それでいて彼には至極自然なのだろうその造形
或いは彼女
彼女はこの僅かな時間の裡に
受精しきった卵を産みつけなかったと
誰が言えただろう
私には言えない
そろそろたばこが欲しくなってきたからだ
戻る 編 削 Point(3)