お客さん/soft_machine
 
ていると
 飛び込んでくるのだ
 生まれは?
 歳は?
 聞きたいことを聞かぬのが酒注ぎの思慮ならば
 カーテンがテーブルに投げかける
 淡いゆらゆらとにじむ光と影が織りなす音楽に
 興味を抱いた訳ではなかろうが
 その背中で震えている翅の発する愉快な音型が
 このお客さんが浮遊する度に不断に耳にする
 滑らかな発声のひとつなのだと思おう

 「お勘定」といった野暮な科白ひとつなく
 現れた時と同じくらい
 唐突に窓をくぐり抜け
 蝿は私の
 この一時の愉快な孤独など知りもせず
 ただの孤独へと私を振り返らせる
 ああ、あの唇のなんと奇妙な
 それでいて彼には至極自然なのだろうその造形
 或いは彼女
 彼女はこの僅かな時間の裡に
 受精しきった卵を産みつけなかったと
 誰が言えただろう
 私には言えない
 そろそろたばこが欲しくなってきたからだ




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