Sat In Your Lap。II/田中宏輔
 
「自我」を、どのような実集合にもなり得る空集合に見立てていた。
 
 詩人が残したメモのなかに、『徒然草』からの抜粋があって、冒頭に紹介した一つ目の原稿に、セロテープで貼り付けられていた。それをここで引用することにしよう。二箇所から引かれていた。


 筆を執(と)れば物書(か)かれ、楽器を取(と)れば音(ね)をたてんと思ふ。盃を取れば鮭を思ひ、賽(さい)を取れば攤(だ)打(う)たんことを思ふ。心は必ず事に触(ふ)れて来(きた)る。
(第百五十七段)


 筆を持つとしぜんに何か書き、楽器を持つと音を出そうと思う。盃を持つと酒
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