閃篇5 そのに/佐々宝砂
 
4 狭い部屋

実家の階段の下にごく狭い部屋がある。収納場所といったほうがいいような空間だが、こどものころは懐中電灯を持って入り込んでお菓子を食べたり本を読んだりした。少しかび臭いそのごく狭い部屋は小学生が寝転がったり座ったりできる、誰も邪魔しにこない私だけの空間だった。この夏久しぶりに実家に帰ったのでその狭い部屋を覗いてみた。大人になった体には小さすぎる扉に半身押し込んで懐中電灯で照らすと、壁一面に大きく赤いラッションペンで書かれた「ズルイズルイ」と見覚えのない字。


5 あの頃の私へ

初夏の半ドンは縁側で本を読む。字が追いにくくなってふと顔を上げれば、あたりはもう薄暗くなり、
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(3)