詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その1。/たま
 
見える風景は空ばかりがたかくて視界はひくく、貨物船や漁船が行き交うにぎやかな海峡は、色褪せたあおい絨毯のように見えた。
 比較的温暖な地方だといっても、十一月の海水浴場は真夏からはとおくて、風も海も砂も、見知らぬ他人みたいに冷め切っているのは仕方ないが。もう五ヶ月も海ばかり見てはたらいているのに、いまだに風景に溶け込めないでいる自分がいちばんの他人みたいで、うそでもいいから防波堤に群れる白いカモメみたいに、おもいっきりたかい空から海を俯瞰してみたいとおもう日があった。
 そんな日は、詰め所のまえでこっそりハトをあつめてメロンパンをやるのだが、ひょっとして、だれか隠れてはいないだろうかとそればか
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