もうすぐ百の猿になる。/田中宏輔
ら影響を受けていく過程で、自分の書くものが、誰にも似ていないものに近づいていくということに気がついたからである。ここにおいて、「他者」というものから「多数の他者」というものに目を転ずると、「個性」という言葉が、それまで自分が思ってきた意味とはまったく違った意味をもつものに思えたのである。ぼくは、こう考えた。「個性というものは、多数の他者に似ていく過程で獲得されていくものである。」と。したがって、「真に個性的な者とは、自分以外のすべての他者に似ている者」ということになる。ターハル・ベン=ジェルーンが『砂の子ども』9のなかに書きつけている、「自分に似ること、それは別の者になること」(菊地有子訳)という
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