もうすぐ百の猿になる。/田中宏輔
 
の声の極端な変わりように、まさにいま尋常ではないことが起こっているのである、といった印象を受けるからであろう。どうやら、ぼくには、人格だけではなく、声というものもまた、統一的な存在であると思いたい欲求があるようである。しかし、よく考えてみると、相手によって、ぼくの話す声と口調が異なっていることは確かである。性格の方も、声ほどではないが、相手によって、やはり違ったものになっているようだ。ただし、これは巫女の場合とは違って、どれもが、ぼくの声であり、どれもが、ぼくの口調であり、どれもが、ぼくの性格であるように思われるのだが。しかし、いったい、いつ、いかなるときに、ぼくのほんとうの声が、ぼくの口を通して
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