もうすぐ百の猿になる。/田中宏輔
 
、そして触れ合うたびに彼を感じとるばかりでなく、なんとも言いあらわしようもないふうに、彼がこの自分のことをどう感じているのかをも感じとれる、そんな親しさであり、彼女にはそれが神秘な精神の合一のように思えた。」(古井由吉訳)と書き表しているような境地にでも立つことができるのであろう。残念ながら、そのときのぼくは、そのような境地になど立つことはできなかったのであるが、たとえば、ホイットマンが、『草の葉』の〈私は自身を礼讃する〉のなかに書いている、「すべての人々のなかに、私は自身を見る」(長沼重隆訳)といった能力のあるひとならば、あるいは、『バガヴァッド・ギーター』の第六章に書かれている、「すべてのなか
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