もうすぐ百の猿になる。/田中宏輔
 
が要因としては大きいと思われる。この感覚をさらに推し進めると、マンが、『トリスタン』という作品のなかで、「おお、万象の永遠なる彼岸における合体の、溢るるばかりゆたかな、飽くこと知らぬ歓呼よ。悩ましき迷誤をのがれ、時空の束縛を脱して、「汝」と「我」と、「汝(な)がもの」と「我がもの」とは、一つに融けて、崇高なる法悦となった。」(実吉捷郎訳)と書き表している境地にでも立つことができるのであろう。あるいは、また、ムージルが、『静かなヴェロニカの誘惑』のなかで、「甘美なやわらぎと、このうえもない親しさを、彼女は感じた。肉体の親しさよりも、魂の親(ちか)しさだった。まるで彼の目から自分を眺めているような、そ
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