もうすぐ百の猿になる。/田中宏輔
 
の声が混じっているような気がしたのである。そして、その声を聞きながら話すぼくの声のなかに、林の声が混じっているような気がしたのである。電話から林の声を通して聞こえるぼくの声を、ぼくが聞きながら、ぼくが林に向かってしゃべるという奇妙な感触を味わったのである。このようなことを、はっきりと意識できた経験は、このときだけだ。それ以後はいっさいない。林との電話で起こったことを思い返してみると、二人が親友であったということも要因として考えられるが、「引用」という文学行為に対して思いをめぐらすことの多かった二人が議論に熱中し、まるで一つの見解を二人が創出するかのごとくに考えをまとめあげていったということの方が要
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