引用の詩学。/田中宏輔
 
か? 現実の世界に身を置きながら、どこにそんな領域を求めることができよう?
(スタニスワフ・レム『虚数』GOLEM XIV、長谷見一雄訳)




 レムのこの言葉から、つぎのようなことを思った。自分の体験をほんとうに認識するためには、自分の体験のなかにいるだけでは、不可能なのではないかと。「定義し理解するためには定義され理解されるものの外にいなければならない」(コルターサル『石蹴り遊び』向う側から・28、土岐恒二訳)という言葉がある。「マールボロ。」という作品において、ぼくが友だちの言葉を切り貼りしてつくった詩句のように、ぼくが他者の体験を通して、他者の体験を、解釈したり理解したり、
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