引用の詩学。/田中宏輔
はミツバチの羽音はその死後には響かないと確信していました。
(ヴォルテールの書簡、ドフォン公宛、一七七二年、池内 紀訳)
読んだこともない詩の一節が
(フィリップ・K・ディック『ユービック』5、浅倉久志訳)
その詩の最後の行を忘れることが出来ない。
(カポーティ『最後の扉を閉めて』2、川本三郎訳)
もしあのとき……もしあのとき。
(三島由紀夫『遠乗会』)
ぼくの白い柵、ぼくの家の囲いの格子垣、ぼくの樹々、ぼくの芝生、ぼくの生まれた家、そして玉撞き部屋の窓ガラス、それらは本当にそこにあったのだろうか?
(コクトー『ぼく自身あるいは困難な存在』ぼくの幼
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