引用の詩学。/田中宏輔
苦悩とは疑惑であり、否定である
(ドストエフスキー『地下室の手記』I・9、江川 卓訳)
彼は神に対して不幸な愛を抱いている。
(キェルケゴール『死に至る病』第二編・A、斎藤信治訳)
ひとは雨雲を覚えていて、思い出すだろうか。
(モーパッサン『ピエールとジャン』5、杉 捷夫訳)
雲は過ぎさるが、天はとどまる。
(アウグスティヌス『告白』第十三巻・第十五章・一八、山田 晶訳)
「すべては流れる」
と賢者ヘラクレートスは言う。
(エズラ・パウンド『「わが墓をたてるために」E・Pのオード』III、新倉俊一訳)
私はある男を知っていました。彼はミ
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